2012年 05月 11日
『小さな黒い箱』 P.K.ディック (浅倉久志 訳) -短篇コレクションI |
いつの世にも、流行りものに躊躇なく飛びつき熱狂する者と懐疑的な者とがいる
ものである。そして、話のタネに一応試してはみるが冷静な者。
舞台は、人類がテレパシー能力を身に着けた未来のアメリカ。
取っ手を持つと、謎の人物「ウィルバー・マーサー」の苦悩や苦痛に共感できる、
「共感ボックス」なるガジェットが世間を席巻している。
マーサーに石ころがぶつけられれば、「共感ボックス」を通じて、マーサー教徒たちも
痛みを感じる。人々は、「苦しみ」を求めているのである。
一方、マーサー教運動を危険だとし、政府はウィルバー・マーサーの居場所を突き止め
ようとしている。
なにしろ、ウィルバー・マーサーはこれから殺されるために、自分が死ぬ場所に向かって
歩いているからだ。マーサーが殺される瞬間は、信者たちはどうなるのか?が、彼らの
最大の関心事である。
マーサーの苦しみを一緒に味わいたいという人々の願望が、なにに由来するのか、
「最後の晩餐みたいなもの」だとか「トランス状態」「霊的交流」など、政府はさまざまに
憶測するが、おもしろいのは、禁制の「パラコデイン」(麻薬のような頭痛薬)が
流行ったときにそれを試した者とそうでない者とで、マーサー教に対するスタンスが
同じだということである。つまりは、マーサー教は単なる流行りものなのである。
騙されやすい大衆、新しいものを排除しようとする管理者、そして、どちらにも属さない者。
好奇心が旺盛な人、慎重な人、とりあえず試す程度に好奇心はあるが、のめり込まない人。
世の中を構成する構成要員のうち、自分がどれにあたるのか考えると楽しいかもしれない。
流行りものひとつで、社会の縮図を描いた作品。
↓ こちらに収録されています
短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
ものである。そして、話のタネに一応試してはみるが冷静な者。
舞台は、人類がテレパシー能力を身に着けた未来のアメリカ。
取っ手を持つと、謎の人物「ウィルバー・マーサー」の苦悩や苦痛に共感できる、
「共感ボックス」なるガジェットが世間を席巻している。
マーサーに石ころがぶつけられれば、「共感ボックス」を通じて、マーサー教徒たちも
痛みを感じる。人々は、「苦しみ」を求めているのである。
一方、マーサー教運動を危険だとし、政府はウィルバー・マーサーの居場所を突き止め
ようとしている。
なにしろ、ウィルバー・マーサーはこれから殺されるために、自分が死ぬ場所に向かって
歩いているからだ。マーサーが殺される瞬間は、信者たちはどうなるのか?が、彼らの
最大の関心事である。
マーサーの苦しみを一緒に味わいたいという人々の願望が、なにに由来するのか、
「最後の晩餐みたいなもの」だとか「トランス状態」「霊的交流」など、政府はさまざまに
憶測するが、おもしろいのは、禁制の「パラコデイン」(麻薬のような頭痛薬)が
流行ったときにそれを試した者とそうでない者とで、マーサー教に対するスタンスが
同じだということである。つまりは、マーサー教は単なる流行りものなのである。
騙されやすい大衆、新しいものを排除しようとする管理者、そして、どちらにも属さない者。
好奇心が旺盛な人、慎重な人、とりあえず試す程度に好奇心はあるが、のめり込まない人。
世の中を構成する構成要員のうち、自分がどれにあたるのか考えると楽しいかもしれない。
流行りものひとつで、社会の縮図を描いた作品。
↓ こちらに収録されています
短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
by garacoblog
| 2012-05-11 23:57
| 短篇小説(外国文学)